兵庫県多可郡多可町中区(旧多可郡中町)に生まれる。
小学1年生から習字を習う。
路上詩人との出会いをきっかけに、2005年ごろから独学で筆と墨を使って言葉を綴り始める。
2009年、東京・新宿駅前で路上パフォーマンスを始める。
それ以降、国内100ヵ所以上の都市と、海外はヨーロッパ・アジアの16カ国を巡る。
TBS「もてもてナインティナイン」フジテレビ「バイキング」をはじめ、NHKなどのテレビや、新聞等でも取り上げられている。
多可町加美区の『みのる庵(仮称)』を拠点に、各地で書き下ろしや個展の開催など、精力的に活躍中。
築百余年の古民家。
『北はりま大学』の初授業を引き受けてくださった、ごとうみのるさんの活動拠点だ。
初めて訪れるのに、なんとなく懐かしさを覚える。
まるで、田舎のおじいちゃんやおばあちゃんのところへ帰って来たよう。
外壁に、『みのる庵(仮称)』という手作りの看板が立て掛けられている。
木の板に味のある手書きの文字。
もちろん、ごとうさん自身の『書』。
中へ通されると、昔ながらの三和土(たたき)と、建具などの深い焦げ茶色が印象的。
ほっこりと和みを感じる、素朴でやわらかな空間。
飾ってある作品の『書』が、しっくり馴染んでいる。
なるほど、ここが拠点に選ばれたのが、分かる気がする。
子供の頃、書道教室に通った人は少なくないと思う。
ごとうさんも、その1人だった。
しかし、自分の書いた文字を真っ赤に直される『書写』は、ごとうさんにとって楽しいものではなかった。
それでも文字を書く事が好きだった彼は、自由な表現を楽しんだ。
筆ペンを持ち歩き、ノートの端にらくがきをしていたという。
それは、余白部分が真っ黒になるほどだった。
ある時、書き下ろしをしてもらう機会があったそうだ。
書家が、ごとうさんから受け取ったインスピレーションを『書』にしてくれた。
「自分にもできるかも」と思い、友人に書いてプレゼントすると、大変喜ばれた。
自分の『書』が人を笑顔にし、その笑顔がごとうさん自身も笑顔にしてくれた。
それでもその頃は、まさか仕事にするとは思っていなかった。
そんなごとうさんを「本格的にやってみよう」と決心させたのは、知人から聞いた、あるアンケート結果だった。
アメリカで90歳以上の人にやり残した事を聞くと、9割以上が「もっと冒険すれば良かった」と言ったそうだ。
その話を聞いたごとうさんは、
「『オレの人生最高やった』って言える事をしたい」と一念発起する。
全国の路上でパフォーマンスをしてまわった。
投げ銭を集める生活が2~3年続いたという。
海外でのパフォーマンスにも挑戦した。
もちろん、大変な事もたくさんあった。
ホームレスにお金を求められたこともあった。
作品を平気で踏み、通り過ぎられたことも1度や2度じゃない。
「辛かった、って思えば辛かったことばかりですよ。
でも、それを辛いと思うのか、良い経験になったって思うのか、考えたんですよね。
そしたら、別に辛い事ってなかったのかな、って。
…全部ネタになってますから。」
と、茶目っ気たっぷりに笑いながら答えてくれた。
数々の荒波を乗り越えてきた人だからこそ、の言葉だ。
人懐っこい笑顔の奥に頼もしさを感じるのは、そういった経験があるからなのだろう。
その経験が、心にひびく言葉や『書』を生み出す。
その作品に勇気づけられ、一歩踏み出せた人や、頑張れた人の感謝の言葉が、
ごとうさんを更に突き動かしている。
自分が成長することが書き下ろしさせてもらった方への恩返しになるのかな、って思うんです」
と、ごとうさん。
自分自身が成長すれば、無名だった頃の作品の価値も上がる。
「書いてもらって良かった、と思ってもらえたら。」
ごとうさんの作品には、書く時だけでなく、
その後流れる年月にも、そんな「想い」が込められ続けるのだ。
作品に対する責任感と、お客様への感謝の気持ちが伝わってくる。
人に喜んでもらい、楽しく過ごしたい、というごとうさんの人柄が表れていると思った。
そんな彼の抱負を聞いた。
「海外ですね。海外でもっと幅を広げたいです。
日本と海外を繋ぐ架け橋になれたらいいかなって。そのキッカケになれば。」
大胆で謙虚、豪快だけど繊細。
そんなごとうさんの印象にピッタリな抱負だと思った。
活躍の場は広がっても「人に喜んでもらい、楽しく過ごしたい」という根本は同じ。
『書』を通じて表現される、強くしなやかな思いは、更に広がり、繋がっていくのだろう。
『北はりま大学』では、北はりまの魅力をもっと知ってもらい、
新しい繋がりや、更に魅力ある地域にしていくためのキッカケを作りたい。
その一環として、先生を引き受けてくださった方のお気に入りスポットを紹介しようと思う。
さて、記念すべき第1回授業の先生、ごとうさんのお気に入りスポットは?
「もちろん、みのる庵(仮称)!」と、間髪入れずに笑うごとうさん。
「それ以外なら」と続けてくれたのは、「岩座神(いさりがみ)の棚田など、田舎の原風景が広がる場所」。
四季折々の表情が楽しめるところがお気に入りだそう。
春の桜はもちろん、菜の花、夏のホタル、秋の紅葉、冬の雪景色が楽しめるのが最大の魅力。
また、それだけ豊かな自然に囲まれていながら、
神戸や大阪、京都まで車で2時間前後で行けるという利便性も、
広範囲を忙しく飛び回るごとうさんにとって重要なポイントとなっている。
最後に、ずっと気になっていた事を聞いてみた。
『みのる庵』がなぜ『(仮称)』なのかー。
みんなに『みのる庵』と呼ばれるので『(仮称)』を付けてそのまま採用したのだという。
このいきさつだけでも、ごとうさんがいかに慕われているか、想像がつく。
『みのる庵(仮称)』で、作品はもちろん、ごとうさんの人柄や、
行き帰りに見える自然豊かな風景やたたずまいも、ぜひ、たくさんの方々に堪能してほしい。